2018年08月09日

納豆ごはんの幸せ

ずいぶん昔、結婚前に母と暮らしていたころ、わたしは飲んだくれて家に帰ってきて小腹がすくと「埼京どんぶり」なるものを食べることがあった。「埼京どんぶり」とは特別なものではない。卵かけごはんに納豆をのせただけである。ただ、わたしの趣味で納豆には醤油や付属のたれは使わず、塩だけで少し濃いめに味付けする。 

  

当時は小学生の甥っ子も一緒に暮らしていた。食べることが大好きな甥っ子はこの様子を見ている。わたしは酔った勢いで「卵と納豆は最強の取り合わせだぞ。これぞサイキョウどんぶりだ」などと息巻いた。そのころ、わたしたちが住んでいたのが埼京線沿線だったので、勝手に「埼京どんぶり」と命名したわけだ。甥っ子はすでに夕飯をすませていたが、私が食べる様子を見て食べたそうな顔をしていた。翌朝、甥っ子が朝食に「埼京どんぶり」を欲しがったのは言うまでもない。甥っ子は小鼻に汗を浮かべながらご飯を掻き込むと、「おいしー」と幸せそうな顔をするのだった。 

ある日のまかない
ある日のまかない。この日は大量の自家消費となってしまった。


時を経て「カフェ明治屋」。ランチは日替わりランチと明治屋特製ドライカレーの
2種類で、日替わりランチは一日10食前後の数量限定だ。たいていの日、オーダーは日替わりランチのほうから入る。11時半にランチタイムを開始して、12時前には日替わりランチが売り切れてしまう日もある。そういうときには、つぎからのお客さんに「日替わりランチは売り切れてしまいまして、明治屋特製ドライカレーのみになりますがよろしいですか?」とお聞きする。なかには、「日替わりランチが食べたかったのに」と残念がるお客さんもいる。こちらも申し訳なく思うが、妻ひとりで調理するには一日10食ぐらいが限界だ。仕方がない。 

  

かと思うと、2時のランチタイム終了まで日替わりランチが何食も残ってしまう日もある。これはメニューがどうこうというよりも、ランチの客数によるようだ。では、残ってしまった日はどうするか。自家消費である。だから日によっては夫婦二人の夕飯の食卓に34人分のランチのおかずがのったりする。贅沢である。豪勢である。しかし、これは日替わりランチが売れ残った結果だからけっして喜べない。 

  

一方、日替わりランチが売り切れた日は夕飯のおかずに困ることになる。そういうときのために、わたしたちは常に納豆を買い置きしてある。「今日はランチがよく売れたね」「夕飯のおかずどうする?」「納豆ごはんでいいじゃん」という具合である。夕餉の食卓は貧相だが、これはランチがよく売れたことの裏返しだから気分は明るい。こういう日は、納豆が心なしかよりおいしい。いつの日も、納豆は幸せの味がするのだ。 



y1_tokita at 08:11│Comments(1)カフェ 

この記事へのコメント

1. Posted by ラフィンのお父さん   2018年08月10日 09:46
5  流石文の書き出しが上手ですね。
若き日の思い出、甥っ子が欲しがる最強と埼京をかけた丼、そして、現在も頼もしい埼京丼。
毎日が埼京丼でありますようにお祈りします。
そして、休日に栄養のあるものを食べて下さい。

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