2017年07月
2017年07月26日
「養生8割、塗り2割」というけれど・・・
「カフェ 明治屋」の改装は、いよいよ漆喰塗りという段になった。客席3室、レジ室、玄関土間の壁すべてを漆喰で埋めなければならない。気が遠くなるような作業だ。
脚立に乗り、壁に漆喰を塗っていく。単純だが気を使う作業。
「明治屋」のもともとの壁は数十年前に塗りなおしたのか、子供のころによく見かけた繊維壁(指で押すと少しへこむ、キラキラした繊維片の混ざった壁)や砂壁(ざらざらした壁で、こするとパラパラと粒が落ちる)だ。本来なら下地処理が必要なのだろうが、それなしに塗れるという練済みの漆喰をネットで見つけて取り寄せた。
ネットの体験談では、とにかく養生(マスキング)をしっかりしないと漆喰があちこちについて大変なことになるから、これでもか、というくらいに養生をすることと書いてある。なるほど、下準備に手間をかけるのは職人仕事っぽくていい。つぎに、1回目は下地が透けて見えるほど薄く塗り、十分乾いてから2度塗りするのがきれいに仕上げるコツらしい。了解、了解。
柱も鴨居もシートで覆って、さながら工事現場。
さっそく試しに目立たないところに塗ってみる。養生をしっかりしたうえで、コテを押しつけるようにして薄く万遍なく・・・うっ、うまくいかない。コテを押しつけすぎると薄くどころか元の壁がむき出しになってしまうし、もう少し厚く塗ろうとするとボテボテになってしまう。悪戦苦闘、結局、コテコテの厚塗りになったうえに、わが身はシャツもパンツも飛び散った漆喰だらけになってしまった。一方、妻のほうはさっそくコツをつかんだのか、手早く薄く塗っている。コテ跡も目立たず仕上がりがきれいだ。
おかしい、何かがおかしい。自分がとくに器用だとは思っていないが、不器用だという自覚もない。子供のころはプラモデルをきれいに作って細かな塗装もしていたし、「図画工作」「技術」の授業でも物を作るのは好きだった。しかし、漆喰塗りは(少なくとも妻との比較では)下手だ。素直に認めるしかない。
下手だといっても二人で作業をするしかないので、妻が7を塗る間にやっと3を塗る割合(しかも仕上がりが良くない)ながら二人で地道に塗っていく。次の部屋に移る前には、塗りは妻に任せて、わたしはもっぱら「養生係」に徹することにした。「知ってる?『養生8割、塗り2割』っていうんだよ」と負け惜しみをいいながら。
それにしても、これだけの面積を2度塗りするのは勘弁してほしい。1度だけですまないものか。さいわい、繊維壁は心配した漆喰へのシミがでない。1度塗りだけですみそうだ。ところが、砂壁は塗った漆喰全体がまだらに黄色くなった。シミだ。客室のうちの2部屋が砂壁だから、全体の約4割は2度塗りしなければならない。二人で黙々と作業をする。
仕上げの床の間(ここだけはベージュの漆喰)は妻に任せて、何とか全体を塗り終える。使用した漆喰は総量100キロ。マスキングテープをはがすと、黒い天井・梁・柱と白い漆喰のコントラストが美しく、素人仕事ながら、何とか古民家カフェらしくなってきた。自分たちで手掛けたせいの贔屓目か。
2017年07月21日
「あがり屋」方式
「カフェ 明治屋」の改装は、天井や梁・柱の古色塗りがやっと終わった。客席用の3室とレジカウンターの1室、それに玄関土間を、それぞれ1日から2日、都合1週間以上かけて仕上げた。脚立に乗って天井を塗っていく作業はとにかく疲れた。ふうー。
ところが、物件探しのときにお世話になった、ある不動産屋さんにこの話をすると、その人は畳敷きの客席を想像していたらしく、「靴のまま上がるのはどうですかね」という。「明治屋」もそうだが、古民家の和室は概して天井が低い。とくに、鴨居は身長168センチのわたしでもぎりぎり通れる高さしかない。靴を履いたままだとヒールの分だけ目の位置が高くなるから、圧迫感があるのだという。それよりも、畳敷きにしてイス、テーブルもやや低めにしたほうがいいのではないかと提案された。
そして、参考までに訪れてはどうかといわれたのが、うちからクルマで10分ほどのところにある蕎麦屋「無哀荘 真金堂」だ。この蕎麦屋さんの建物は蒜山地方から移築した築150年を超える茅葺き屋根の古民家で、なかは畳敷き。ローチェアー、ローテーブルを配して、とてもいい感じの店内だ。畳敷きも悪くないな、いや、畳敷きのほうがいいかも、と思わせるものだった。
内外装工事の見積もりを頼んでいた業者さんにそのことを知らせると、畳替えをして本畳にするのもいいけれど、カフェなどの飲食店の場合、「たたみシート」を使う手もあるという。これは畳表の色・形状を模したビニルシートで、居酒屋や飲食店の座布団席でよく用いられているものである。飲料などをこぼしても畳より処理が楽で、何より本畳よりコストが安い。本畳の感触も捨てがたく迷ったが、結局、「たたみシート」の工事をお願いすることにした。
というわけで、二転三転、無垢のフローリングはやめ、客席は「たたみシート」とローチェアー、ローテーブルでいくことにした。床張り工事を自分たちでやるつもりだったわたしたちは、正直、ほっとした。ネットでいろいろ調べていたが、床張りは下地工事から始まってなかなか骨が折れそうなのだ。自分たちでやって、収拾がつかなくなる恐れもあった。
いまから30年ほど前、わたしが小学生の甥っ子と暮らしていたころ、近所に「あがり屋」と子供たちが呼ぶ店があった。ふつうの民家が小遣い稼ぎに駄菓子屋をやっており、客の子供たちは玄関で靴を脱いで上がるから「あがり屋」だそうだ。「カフェ 明治屋」も玄関土間で靴を脱いで上がってもらおう。靴と一緒にもろもろのストレスも脱いでもらう店をめざそう。
2017年07月15日
「自由業」の時間割
移住直後に、「休もうと思えばいつでも、いつまでも休めるが、やるべきことをやっていたら休みなしという身になった」と書いたが、サラリーマンをやめて変わったことの一つに、当然ながら時間の使い方がある。
サラリーマン時代は、朝、気が乗らなくても義務的に出社し、9時―5時の仕事をこなせば何とか格好がついていた。ところが脱サラして移住してみると、「カフェの開店準備」という大きな目標はあるものの、まだ営業しているわけではないので時間的には自由。「自営業」未満の「自由業」なのだ。ともすると易きについて生活がだらけてしまう。
そこで、自分たちでいくつかのルールを作ることにした。まず、朝は勤めていたころと同じに6時に起きる。土・日は休みにし、平日・休日のメリハリをつける。平日は朝、雨でなければ散歩に出かけて気分転換をする。
一日は、具体的にはこんな具合だ。
6時 起床 1杯目のコーヒー、朝食、身支度
7時半 散歩(3~4コースからその日の気分で選ぶ)
9時 散歩から帰宅 ここで仕事のはずだが、ついつい一休み兼2杯目のコーヒー
10時 仕事(開店準備)
正午 昼食と3杯目のコーヒー、一休み
1時 仕事再開
4時 おやつタイム 日によっては、ここで早仕舞い
5時~6時 仕事終了
7時~8時 夕食
10時すぎ 就寝
このうち、わたしがどうしても心惹かれてしまうのが「おやつタイム」と「早仕舞い」だ。3時のおやつは会社員時代にもあったが、「早仕舞い」はなかなかない。何ともいい響きではないか。もちろん、こんな呑気なことを言っていられるのも今のうちだけだが。
それはともかく、自宅兼職場にいるのだから当たり前だが、一日の行動のなかに「通勤」がない。以前、朝の通勤時間だった7時半から9時の時間帯は、そのまま散歩の時間になっている。満員電車に揺られての通勤と季節を感じながらの散歩。どちらがいいかは言うまでもない。それに、仕事が終われば、即、シャワータイム。これは脱サラ・移住してよかったことの一つだ。
ただ、会社からの帰りの電車は、わたしにとっての貴重な読書時間だった。妻も、朝晩の通勤時間を読書に充てていた。それがなくなったことで、二人ともうっかりすると読書をしない日が生じるようになってしまった。地方に移住してゆっくり読書三昧というわけではないのだ。何ごとも一長一短である。
2017年07月10日
倉敷 瓦と白壁の街
移住当初から妻が行きたいといっていた倉敷を訪ねた。「カフェ 明治屋」からはクルマで約1時間、ドライブにちょうどよい距離である。
倉敷は、妻は初めてだが、わたしは30年ほど前、当時勤めていた出版社の出張のついでに観光をした覚えがある(もう時効ということにしよう)。しかし、30年という年月のせいか、わたしの記憶力が乏しいせいか、ほとんどまったく覚えておらず、すべてが新鮮だった。
美観地区の入り口にある「倉敷物語館」。江戸時代の建物だが、とてもきれいにしてある。理想の古民家だ。
倉敷といえば有名なのは大原美術館がある倉敷美観地区だろう。わたしたちも美観地区の駐車場にクルマを入れ、歩いて見て回った。運河に沿って建てられた屋敷や蔵が美しい。古民家に移住したせいで見るところが違ってきたのか、ついつい、家並みの瓦の種類や漆喰壁の仕上がりに目が行く。
本葺瓦の屋根と漆喰壁が美しい建物。じつはこれが証券会社の社屋だ。
倉敷には洋風の建物もある。写真は倉敷町役場として建てられた倉敷館。いまは観光案内所だ。
同じ歴史的建造物の保存地区でも、以前紹介した勝山と違って倉敷では本葺瓦の建物が多い。本葺瓦とは、丸瓦と平瓦を組み合わせたもので、寺院やお城などに多く使用されているもの。「カフェ 明治屋」も本葺瓦なので、たいへん親しみがもてる。また、倉敷の建物群は漆喰壁がとても立派で、漆喰の美しさにあらためて魅了された。
「カフェ 明治屋」の改装は、いよいよ山場の漆喰壁塗りにさしかかろうとしている。倉敷美観地区の美しい建物群には遠く及ばないが、わたしたちも何とか「カフェ 明治屋」をよみがえらせ、「美観」に一歩でも近づけたいものだ。
2017年07月06日
エーゲ海は初夏の輝き
今回のタイトルを見て、ブログを間違えたと思われた方もいらっしゃるかもしれないが、そうではない。「カフェ 明治屋」からクルマで約20分、同じ瀬戸内市内の牛窓は「日本のエーゲ海」と呼ばれている。最初にこの話を聞いたときには「この命名はどうかな?」と思ったが、実際に行ってみると、エーゲ海の名に恥じない、とても美しいところである。
最初に牛窓を訪れたのは、家さがしの途中だった。牛窓オリーブ園から瀬戸内海の島々を眺めながら、こんな景色のところ(の近く)に住みたいね、と夫婦で話し合ったものだ。そして、それはほぼ実現した。当然、移住してからも、牛窓には何度も遊びに行っている。牛窓では、やはりオリーブ園がいい。山ひとつがオリーブ畑になっており、頂上の広場からは前島や小豆島などが見渡せる。ここのベンチで穏やかな瀬戸内海をボーっと眺めているのが、わたしは大好きだ。
牛窓にはユニークなお店やカフェも多い。そのなかからいくつかを紹介しよう。まずは気になるカフェから。牛窓のメインストリート沿いにある「てれやカフェ」は、古民家を改造した素朴なカフェだ。今風にきれいにすることにお金をかけない、という店主さんの姿勢が見て取れる。失礼ながら、わたしたちでもカフェができるかも、と思わせてくれたカフェである。カレーがおいしかった。
県道から迷路のような細い道を登ったところにある「フォルツァカフェ」は、しゃれたレストラン風のカフェ。テラス席からは牛窓の砂浜と海が見渡せる。わたしたちは、ここで十六雑穀米ランチとパスタランチをいただいた。ランチはほかにもいろいろあり、女性やカップルに人気だった。
おいしいパン屋さんもある。牛窓の丘の上の住宅街にある「ひとつ工房」は、とても小さなパン屋だが、食パンの種類が多く、どれもおいしそうなので、ひとつひとつ試してみたくなる。
ちょっと変わったところでは、手作りのスプーンやトレーを製造・販売している「匙屋」という店がある。サラリーマンを経て工芸家になったご店主が、東京・国立にあった店をたたんでこの地に移ってきたそうだ。木彫りのスプーンは、どれも世界に二つとないもの。赤ちゃん用などもある。どれも軽く温かみがあって使いやすそうだ。