2019年10月

2019年10月30日

道具を「始末する」

京都の言葉に「始末する」というのがある。この「始末」は、一般的な意味の「片づける」や「処分する」ではなく、「つつましやかにして浪費しないこと」(倹約)という意味らしい。日常生活のなかでもよく「しまつせなあかんえ」と言われるそうだ。食材を無駄にしないことなどのほかに、物でいえば「使えるあいだは使うてやらな」という「使い切り」精神の現れである(早川幸生の京都歴史教材たまて箱87 京の「しまつ」から)。 

  

この生活態度はおおいに見習いたいものだ。時代は大量生産大量消費から多品種少量生産へ、さらにシェアリングエコノミー、サブスクリプションへと移り変わってきたが、物を持った以上は、その寿命が来るまで使い切るという方向へ、いわば「原点回帰」しているように思う。 

ランタン
長年使いこんだランタン。修理でよみがえった。


かくいう私も物持ちはいいほうだ。これまでに乗ってきたクルマは、思わぬ事故で廃車にしてしまった先代の
Poloを除いて、ほぼ修理用の部品が入手不可能になるまで乗った。ジーンズでも、膝に穴が開いたら膝上で切って半ズボンにしてとことん穿いたものもある。 

  

少し前に記したキャンプでは、ほとんどの道具がキャンプ専用だ。その多くを、わたしは20代のうちにそろえた。ということは、使い始めて30年くらいは経つことになる。わたしがキャンプで使っているもののうちで一番古いのは、おそらく懐中電灯だ。これはキャンプ用に購入したものではなく、20歳くらいのころに買った自転車の付属品だったものだ。全体が金属製という、いまや考えられないモデルで今も現役。40年選手だ。 

  

ストーブ(煮炊きするための火力)やランタン(灯り)も古い。購入したのは1980年代だろう。すべてコールマンのガソリン式である。そのランタンが、今年のキャンプ中に調子が思わしくなくなった。いくらポンピング(空気の充填)をしても火力が上がらない。いろいろいじってみたが自力では修理不可能とあきらめ、キャンプから帰るとすぐにコールマンに修理に出した。 

  

数日して修理完了したものを返送してきた。さっそく点火してみると、見事に復活。長年使いこんだ物がよみがえる姿を見るのは、新品を購入した時に勝る喜びだ。問題は、その修理費用である。往復の送料を含めて約12000円。新品の価格とさして変わらない。いまの時代、「始末」するにもお金がかかるのが悩みの種だ。 



y1_tokita at 05:00|PermalinkComments(0)瀬戸内暮らし 

2019年10月24日

砂糖と塩

カフェは一種の異空間である。お客さんは、何らかの「新味」を求めてカフェを訪れる。だから、「カフェ明治屋」では、日ごろの家庭での生活とは一味違ったモノやサービスを提供しようと思っている。奇抜な内装にしたり奇をてらった料理を出したりするつもりはないが、できれば、お客さんがいつも体験しているものよりもちょっとだけ「おいしい!」「センスがいい!」と感じてもらえるようなものを出したい。 

  

「カフェ明治屋」の開店に当たっては、お客さんが使うものすべてにわたってそういう意味での気をつかったつもりだ。たとえば、飲み物と一緒にテーブルに置くシュガーポットやシュガートングにしても、あれこれ吟味した。 

ラ・ペルーシュ
角砂糖のラ・ペルーシュ。


中身の砂糖ともなればなおさらだ。砂糖もグラニュー糖、コーヒーシュガーなど多種多様だが、「カフェ明治屋」ではフランスのラ・ペルーシュ(
la Perruche)という角砂糖を使っている。これは100年以上の歴史を持つ、サトウキビ100パーセントの砂糖で、さっぱりした甘さが飲み物の味を引き立てる。角砂糖といっても、大きさや形が11個ふぞろいなのも手作りっぽくていい。これのブラウンとホワイトをシュガーポットにほぼ半々に入れて提供している。ブラウンとホワイト、大きさを選びながら入れるのも、ちょっとした「楽しみ」になるのではないかと思う。ほかの砂糖と比べて値が張るのが難点だが、何とかがんばってこれを使い続けている。 

ピンクソルト
ヒマラヤン・ピンク・ソルト・クリスタルズ。


もうひとつ、がんばって使い続けているのが岩塩だ。「カフェ明治屋」では、モーニングサービスのトーストとハムチーズトーストにゆで卵をつけている。それに振りかける塩をミル型の容器に入った岩塩にしているのだ。お皿と一緒に出し、「ミルになっていますのでカリカリカリと挽いて卵にかけてください」と説明する。
 

  

この塩は、アメリカのスーパーマーケット・チェーンであるトレーダー・ジョーズ(Trader Joe’s)のオリジナル商品で、ヒマラヤン・ピンク・ソルト・クリスタルズ(Himalayan Pink Salt Crystals)という。その名の通り、ピンク色をした岩塩だ。わたしたちがまだ東京にいたころ、妻の同僚からアメリカ土産にもらったのが最初だった。とても味のいい塩なので、カフェでも使おうと思った次第だ。普通の白い塩が置いてあるより、ピンクの岩塩をカリカリとやるほうが面白いのではないかという思惑もあった。 

  

この塩はトレーダー・ジョーズの店舗では12ドルほどで売られているようだが、日本で店頭販売しているところは、わたしが知る限りない。Amazonでは11,500円ほどで売っている。これはいくらなんでも高すぎる。ネットを探し回って、アメリカからの送料込みで11,000円を切る輸入業者を見つけたが、それでも負担は大きい。 

  

そういうわけだから、アメリカにいる妻の元同僚が、日本への里帰りの際にこれを10本お土産に持ってきてくれたのは大いに助かった。持つべきものは友である。 



y1_tokita at 05:00|PermalinkComments(0)カフェ 

2019年10月18日

素人考え

ずいぶん前のことになるが、わたしがある喫茶店でアイスコーヒーを注文したら、それを供しながらマスターが説明してくれた。「うちのアイスコーヒーは氷もコーヒーでつくっているんですよ。だから、氷が解けてもコーヒーが薄まらない」。なるほど、と感心した。 

  

時は流れ、自分がカフェをやることになったとき、それをまねてアイスコーヒー用の氷はコーヒーで作ろうと思った。それがどんなに大変なことなのかも知らずに。それどころか、当初、わたしたちは厨房に製氷機は必要ないのではないかと高をくくっていた。小型とはいえ業務用の冷凍冷蔵庫を入れるのだから、氷はそれでつくればいいと。 

製氷機
業務用製氷機。もはやこれなしの営業は考えられない。


業務用冷蔵庫を納入してくれた業者さん(テンポスバスターズ)にそのことを告げると、「それはダメです!」ときっぱり言われた。冷凍庫で毎日、大量の氷をつくり続けると、冷凍庫が壊れるというのである。考えてみると、たとえ冷凍庫が壊れなくても、毎日使う氷をすべて製氷皿でつくっていたら冷凍庫は製氷皿でいっぱいになってしまうし手間でしょうがない。
 

  

というわけで、わたしたちは厨房の隅に何とかスペースをつくって小型の製氷機を入れた。中古を探したのだが、なかなか出物がなく、オープンも迫る中やむを得ず新品にした。しかし、実際にオープンしてみると「製氷機様様」である。氷はお客さんごとに出す水のグラスにも入れるし冷たい飲み物にはたくさん使う。調理の際に熱いものを冷ますのにも大量に使う。 

  

とくに、「カフェ明治屋」ではアイスコーヒーも豆から挽き、ハンドドリップした熱々のものを氷に流しかける。だから、氷はグラスからあふれるくらいにたくさん使う。アイスティーも同様である。いまや、製氷機のない状態での営業など考えられない。素人考えとは恐ろしいものである。 

  

それにしても、冒頭で紹介した「コーヒーでつくった氷のアイスコーヒー」。あの氷はどうやってつくっていたのだろう。冷凍庫に製氷皿を積み上げてつくっていたとしか思えないが、とてもまねできない。 



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2019年10月12日

ちょっとだけ値上げ

「カフェ明治屋」をオープンするとき、メニューの品目と価格をどうするかで悩んだ。オーソドックスなトーストモーニングはなるべく安くしたい。わたしが若かったころ、喫茶店ではコーヒーにトーストとゆで卵をつけてコーヒー1杯の値段で出しているところが多かった(当時は200円台だったと思う)。その記憶があるので、コーヒー(または紅茶)にトーストとゆで卵、ミニサラダをつけたトーストモーニングは、コーヒーと同じ440円で出すことにした。 

  

ランチも同じである。開店当初は、なるべく多くの人に店を利用してもらい、店の存在を広く知ってもらいたい。そこで日替わりランチとカレーランチはともにコーヒー(または紅茶)つきで980円にした。1,000円札でお釣りがくる金額である。 

価格改定
仕入れ値も上がっている。ご了承ください。


実際にオープンしてみると、この値段ではきついことはすぐにわかった。トーストモーニングについていうと、パンは天然酵母のものを使用しているし、レタス、トマト、ブロッコリーのミニサラダもつけている。ゆで卵は殻のままではなく剥いて出しているので手間もかかる。ヒマラヤン・ピンク・ソルトの岩塩も添えている。これでコーヒー
1杯と同じ値段ではつらい。 

  

ランチも然り。厳密な原価計算をしたことはないが、ざっくり言って原価が5割を優に超えている。外食産業では原価3分の1、人件費3分の1、儲け3分の1といわれるが、とんでもない。日によっては、もしかしたら原価割れしているのではないかと思うほどだ。お会計のとき、「安いですねー」と言ってくれるお客さんも多い。それはそうだろう。ほとんど出血大サービスなのだから。 

  

もちろん、原価を下げる努力はしているつもりだ。食材は、少しでも安いものを買うようにしている。しかし、お客さんにはやはりいいものを出したい。「カフェ明治屋」としてモーニング、ランチをお出しするからには、「カフェ明治屋」らしさのあるもので満足していただきたい。 

  

どこの店でも抱えるジレンマだろうが、悩んだ末、消費税アップに合わせて少しだけ値段を上げさせていただくことにした。トーストモーニングで50円(440円→490円)、ランチセットで100円(980円→1,080円)である。 

  

店頭で10月からの価格改定の告知をしたら、それを見たあるお客さんからさっそく「中身は変わらないの?」と訊かれた。岡山の消費者はシビアである。お客さんが激減するようなことがなければいいのだが・・・。 

  

これからも「カフェ明治屋」をどうぞよろしくお願いいたします。 



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2019年10月06日

不思議な軽減税率

10月から消費税率が10パーセントになった。食料品には軽減税率(8パーセント)が適用されるが、店内での飲食は10パーセントである。この消費税増税については、言いたいこともあるが、ここでは措く。 

  

何はともあれ、税率の変更に対応しなければならない。「カフェ明治屋」では基本的に持ち帰りの食品を用意していない。スイーツをテイクアウトしたいとおっしゃるお客さんもいるが、そういうお客さんには、店内で出したものの「食べ残し」を持って帰るという形にしてもらっている。なので、消費税率は一括して8パーセントから10パーセントに変更になる、と思っていた。 

軽減税率
国税庁のサイト。わざわざコーヒー豆についての記述がある。


ところが、である。「カフェ明治屋」ではコーヒー豆の販売も行っているが、これは
8パーセントだという。国税庁のサイトにある「消費税の軽減税率制度に関するQA」にちゃんと載っている。 

  

「カフェ明治屋」では、税込表示の内税にしているので、税込み価格が変わらないものに関しては、特に対応の必要はない。しかし、レシートには消費税8パーセント、税額〇〇円などと表記されるので、そこは変えなければならない。 

  

そこでレジスターだ。約2年前、開店少し前に買ったレジは、幸い軽減税率にも対応している。101日から消費税率を10パーセントにする予約を行い、新たに「テイクアウト」という項目を立てて軽減税率の対象にする操作をした。コーヒードリッパーやサーバーなどの「商品」は10パーセント、コーヒー豆は「テイクアウト」の8パーセントだ。これまではコーヒー豆も「商品」として打っていたから、これからは間違わないようにしなければ。 

  

ただ、あらためて記すと「カフェ明治屋」は内税なので打ち間違えても税込み額は変わらない。これが外税だと、「商品」と「テイクアウト」で税込み額が変わってくるから気をつかうだろう。 

  

そもそも、なぜ店内で飲むコーヒーは10パーセントで持ち帰りのコーヒー豆は8パーセントなのか。複数税率にすると腑に落ちる説明がつかないまま制度がややこしくなるだけだと思うのだが・・・。 



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