2017年11月23日
金庫の秘密
「カフェ明治屋」の入口は、昔ながらの引き戸だ。そこをガラガラと開けて中に入ると、すのこ状の上り口がしつらえてあり、靴を脱いで上がるようになっている。その突き当たりの一角に、大きな金庫が鎮座している。
わたしたちが「明治屋」の物件に決めたとき、家の中はあらかた片付いていたが、こまごまとしたものは残っていた。そして、この金庫も。わたしと妻は、売り主さんに片づけてからの引き渡しをお願いしたが、この金庫だけは残しておいてくれないかと頼んだ。金庫の存在感がそうさせたのだと思う。
この金庫は観音開きで、「イロハ・・・」の文字が入ったダイヤル錠がついている。製造元の銘として「東京市 馬喰町 竹内製造」という文字が浮き彫りになった真鍮製らしきプレートがついている。このプレートには菊の御紋もあしらってあり、このメーカーと皇室とのかかわりがうかがわれる。製品名は「鋼鐵第五號」だ。「東京市」という表記からして、おそらく明治か大正、近くても戦前昭和のものだろう。
この金庫が、実はまだ現役なのだ。開かなくなるのが怖くて鍵を掛けたことはないが、売り主さんからは開錠の手順を教えてもらっているから、施錠、開錠ができるのだと思う。扉は重々しくもスムーズに開閉し、軋み音の一つもない。
この金庫は下に車輪がついている。カフェに改装するとき、金庫の裏に漆喰を塗りたくて金庫を少し動かそうとしたが、車輪がついているにもかかわらずびくともしなかった。この金庫自体が、ここに存在し続けることを主張しているとしか思えない。
というわけで、この金庫は「カフェ明治屋」のシンボルになっている。存在自体が人の目を引く。さすがに金庫として使うつもりはなかったので、中に何を入れるか二人で相談した。その結果・・・。
店に小さなお子さんを連れたお客さんが見えると、その子に「あとでいいものをあげるからね」と言うことにしている。ちょっとした時間を見つけて、親御さんとお子さんを金庫の前に連れてくる。「この中に秘密の宝物が入っているんだよ」と言うと、おもむろに扉を開ける。二重、三重の扉を開けて出てくるのは、ちょっとしたオモチャがたくさん入ったカゴだ。目を輝かせた子供に「どれがいいかな? ひとつ選んでね」と声をかける。この金庫は、りっぱに現役なのだ。
この記事へのコメント
小さい子は金庫の意味も価値も、まだわからないと思いますが、金庫からおもちゃが出てきたワクワク感はきっと忘れないでしょうね(^ ^)
お二人の優しさが伝わります💖
頼みますよ。