2017年03月05日
移住は夢か現実か
「瀬戸内に移住してカフェをやるんですよ」と言うと、たいていの人は、「えー、いいですね」「羨ましい!」「開店したら、ぜひ行きますよ」などと返してくれる。もちろん、調子を合わせてくれているということもあるのだろうが、「瀬戸内」「移住」「カフェ開業」といったキーワードが、聞いた人にとって現実味の乏しい「夢物語」だから、そう言うしかないということもあるのだろう。
「移住」だけでもそうだ。住み慣れた土地を離れることは、たいていの人にとって大きな不安と抵抗が伴う。定年後に故郷・実家にUターンするという人はある程度いるが、わたしの場合、移住先は見ず知らずの土地。「移住」が先にあって、行き先を探したという順序である。
では、なぜ「移住」なのか。結論を先に言うと、東京(およびその近郊)に終の棲家を定める気にならなかったからである。東京は、働くための場所であって、愛着を持って住み続け、そこで人生の終末を迎える場所ではないという感じがどうしてもぬぐえない。
海の見える高台はいかが? 写真は瀬戸内市の牛窓オリーブ園から望む瀬戸内海。
わたしは「東京人」ではない。出身は九州・熊本で、大学進学を機に上京した。働き始めるときに熊本に帰ることは考えなかった。就職先として考えていた出版業界では、9割の会社が東京に集中しているということもあり、東京での就職しか頭になかったのである。
それから三十数年、この間に熊本から親を呼び寄せ、結婚して二人で部屋を借り、老いた親と同居しと、家族構成には変遷があった。そのせいもあり、ずっと借家住まいだった。持ち家でないから、身軽で移住を考えやすいという面はある。
でも逆に、家を持たなかったのは、若いころから漠然と「将来は地方に移住」と考えていたからでもあるような気がする。子どものころ、町中を歩いていても遠くに山並みの見える地で育ったわたしは、何十年住んでも、根っからの「東京人」にはなれないということなのだろう。
人と人との距離、自然の豊かさ、交通その他の便利さ、それぞれについて、その人その人なりの好みがある。東京にしかない活気、ダイナミックさを必要とする人にとっては、東京はかけがえのないものだろう。しかしわたしには、東京はあくまで「仮住まい」の土地だったのである。
ちなみに、わたしの妻は千葉市の出身で、中学生時代の遊び場は「電車でほぼ一本の原宿」だったそうだが、やはり地方での暮らしを希望している。そんな人もいる。