瀬戸内暮らし
2023年06月26日
コロナショック(その44)
新型コロナについて書いた前回のブログで、わたしは「感染の大きな波が今後来ないことを祈るのみである」と記した。しかし、やはりどうもそうは問屋が卸さないようである。ことし(2023年)はじめの第8波のピーク以降、減少傾向にあった新規感染者数は4月あたりから漸増し始め、このところその傾向を増している。すでに第9波の入り口を過ぎたのではないかとの専門家の声もあり、夏ごろにかけて第9波が来るものと見られている。
これまでに8回も波が来たのに9回目が来ないとは思わなかったし、しかもその波は傾向として次第に大きくなっていたのだから、第9波がこれまでにないほどの大きな波になることは素人のわたしにも容易に想像がつく。しかし、困ったものだ。
困ったというのは、大きな波が来れば自分たちが感染するリスクがあるということもあるが、「カフェ明治屋」の経営にとっても打撃となることである。
「カフェ明治屋」には、もちろんいろいろな年齢層のお客さんがいらっしゃるが、ほかのカフェと比較してみると、感じとしては年齢層の高いお客さんが多い。おじいさんやおばあさんを連れて中年の息子さんや娘さんがいらっしゃるなどというのが典型だ。ところが最近、そういう高齢のお客さんがめっきり減っている。
やはり、まだコロナを警戒しているのかもしれないし、コロナ禍で家にこもっているうちに体が利かなくなったという方もいらっしゃるかもしれない。
高齢の方の運動能力が急に低下するのは、わたしも目の当たりにしたことがある。1~2年ほど前まではよくランチに見えていた高齢のご夫婦がいらした。お二人とも矍鑠として、ご主人はいつもごはんをお替りされていた。しばらくお見掛けしないなと思っていたら、つぎに娘さんに連れられて見えたときにはお二人とも足もとがおぼつかなくなっていらっしゃった。ごはんもお替わりどころではない。コロナの影響で出歩かなくなったせいかどうかはわからないが、高齢の方の場合、このように急に運動能力に支障をきたすようになることがあるのである。
そのうえに、このところの物価高騰である。年金の額面金額が増えなければ、物価上昇に反比例して使い出が減るということである。外食の回数を減らす、あるいは外食をやめてしまうという高齢の方も多いのかもしれない。
最近、献血者を調べたある調査によると、4割強の人がコロナの免疫をもっているそうである。これが6割を超えて集団免疫を獲得するには、まだ時間がかかるだろう。コロナとのつきあい(闘い)はまだまだつづきそうだ。
2023年06月20日
ことしもやりました「小堀さらえ」
ことしも「小堀さらえ」の季節がやってきた。「小堀さらえ」といえば、このブログの読者ならもうご存知だろう。ご近所のおばあちゃんの名前ではない。田植えの前に、町内会のみんなが地区の用水路をさらって水張りに使えるようにする作業のことである。
このイベントは、コロナ禍のあいだは一時休止していたが、昨年から再開された。日曜日の朝、町内会の各戸から人が出て集会所に集まり、近くの所定の用水路を清掃するのである。だいたい毎年5月下旬から6月上旬に行われるようだ。
これにはわたしも毎年、参加してきた。最初の年にホームセンターでそれ用のスコップというかショベルというか、とにかく「小堀さらえ」専用の道具を買い求めた。灰掻き用のスコップを大きくしてL字型に曲げたものと言えばいいだろうか。これで用水路の底にたまった泥をすくい、外に投げ出すのである。
当日、わたしは汚れてもいいTシャツと破れたジーンズ、軍手と長靴といういでたちで、この道具を抱えて集会所に向かった。定時になるまでにパラパラと人が集まり、総勢二十数名が作業にとりかかる。
「小堀さらえ」は重労働である。「カフェ明治屋」があるこの地区もご多分に漏れず高齢化が進み、泥を掻き出す作業はなかなか難しい方も多い。そういう方は、用水路脇や集会所の庭の草刈り、草むしりをされていた。
ことしも大活躍したのはウチのすぐご近所でバイク修理店を営まれているSさんである。刃の大きなスコップでガーっと一気に泥を集め、外に放り出す。Sさんのスコップの刃がちょうど用水路の底にぴったりの寸法なので、きれいに仕上がる。Sさんは、息を切らし大汗を掻きながらすごい勢いで作業を進めた。
そうやって半分終わったところで小一時間経っていた。後半は泥水が溜まっているところを掻き出さなければならない。少々うんざりしていると、みなさん、集会所に引き上げるではないか。「この先はやらないんですか?」と訊くと、「○○ちゃんがもうやってくれたから」とのこと。町内のHさんが事前にひとりで後半部分の作業をしてしまっていたのである。
これには驚いた。重労働で数時間はかかったのでないか。感謝しかない。というわけで、ことしは半分で作業終了。みんなで集会所の前に集まり、用意された麦茶を飲んで散会となった。
SさんやHさんのような献身的な人がいて町内会は成り立っている。なかなか難しいが、わたしもできるかぎりはお手伝いをしなくては。
2023年06月14日
美術館のある町
わたしは美術館に行くのが好きだ。映画館同様、美術館はふつう天候に関係なく楽しめるので、以前は雨の休日の朝にネットで美術展を検索したものだ。晴耕雨読ではないが、晴れならドライブと外での遊び、雨なら美術鑑賞というわけである。
もちろん、晴れの日のほうがぜったいにいい美術館もある。わたしの印象に残っている美術館は、東京にいたときによく出かけた府中市美術館である。ここは府中の森公園の一角にあり、公園の散策と美術鑑賞が楽しめる、とても気持ちのいい美術館である。
これまであちこちの美術館に行ったが、日本にはどれくらいの数の美術館があるのだろう。ある統計によると450余りだというが、1000以上という調査結果もある。どこまでを美術館に含めるかによるのだろう。国公立の美術館は500ほどらしい。
そういう美術館だが、わたしが住む瀬戸内市には市立の美術館がある。その名も「瀬戸内市立美術館」という。人口わずか3万数千人の市に市立の美術館があるというので最初に聞いたときにはちょっと驚いた。全国の自治体の数は1700ほどである。公立の美術館が500ほどしかないことを考えると、ここ瀬戸内市に市立の美術館があるのは立派なことだ。
その「瀬戸内市立美術館」に先日、行ってきた。開催中の「近代巨匠絵画展」を観るためである。この展示は、日本で最も歴史のある洋画商として知られる日動画廊の協力で開催されているものである。日動画廊の豊富なコレクションを中心に安井曾太郎、岸田劉生などの国内作家、そしてパブロ・ピカソやマルク・シャガールなどの海外作家も含め、日本洋画史に残る巨匠の絵画を展示。自画像と女性像をテーマに紹介し、作家の素顔に迫っている。
東京で美術展というと、ものによっては大変混み合い、なかなか思うようなスピードで絵を見て回れないということも多いのだが、地方ではそんなことはない。この「近代巨匠絵画展」も平日ということもあり入場者は少なく、自分のペースで見て回ることができた。
芸術は平和を象徴するものだと思う。自分の住む町に美術館があり、いつでも芸術に接することができることを幸せに思うし、こんな小さな市に公立の美術館があることを誇らしく感じる。今後、もし市が財政難になっても、どうか美術館はなくさないでほしい。
2023年06月08日
仕事は人生の10分の1
カフェを開業して5年、仕事に追われる毎日だ。営業日は仕事をしているか、短い睡眠をとっているかという感じになる。サラリーマン時代には休日には仕事をしない主義だったが、自営業ではそれもままならない。まったく仕事をしない日は、長期休暇中を除いて皆無である。生活は、完全に仕事中心である。
雑誌や書籍の編集者として働いていたサラリーマン時代にも、土日休みの週休二日制だったので、生活の7分の5は仕事に取られていたという実感だ。とくに日本人はそうなのかもしれないが、「人生を楽しむ」というよりは「仕事を完璧にこなす」ことに時間と労力を割いている気がする。
しかし、モノは考えよう。一般的な勤め人の人生を考えると、働くことの割合は直感的に思うほどにはないのかもしれない。
大雑把な計算をしてみよう。20歳から60歳まで働くとして40年。いまは定年延長でもう少し働くのかもしれないが、それでも人生100年といわれる時代だ。年数でいうと働くのは人生のうちのせいぜい2分の1だろう。
もちろん、その間、めいっぱい働いているわけではない。一日24時間のうち8時間を労働に費やすとして3分の1だ。先の2分の1と3分の1で6分の1ということになる。
しかも、この間も一年中働いているわけではない。週に5日働くとして一年52週で260日。有給休暇が20日あるとして240日。これは一年365日のほぼ3分の2である。上の6分の1とこの3分の2で、この時点で9分の1である。
人生は長い。働いているあいだには病気やケガで休むこともあるだろう。転職のためにブランクとなっている期間もあるかもしれない。もちろん、慶弔休暇もあるし、会社によっては長期間勤めるとまとまった休みがもらえるところもある。それらを勘案すると、最初にいったように大雑把な計算だが「仕事は人生の10分の1」にすぎない、といえるのではないだろうか。
それでどうだというわけではないのだが、目の前の仕事に追われて疲れ果てているとき、いくらかの気休めにはなるかもしれない。
2023年06月02日
赤穂の「きらきら坂」
前にも紹介したが、「カフェ明治屋」と同じ長船町内に「かいじゅうとたね」というカフェがある。男の子2人のお子さんを持つ若いご夫婦がやっている店だ。しばらく前に、そこのInstagramを見ていたら家族で赤穂の温泉と「きらきら坂」を訪れたという記事が載っていた。
その写真を見ていて、わたしもぜひ行きたくなった。長いコロナ禍のせいもあって、夏の長期の休みのとき以外、わたしたちは県外に出ることがまったくない。しかし、考えてみると「カフェ明治屋」がある瀬戸内市は県の東部で、備前市を越えればすぐに兵庫県である。赤穂も遠くはない。
ある天気のいい定休日、わたしたち夫婦は赤穂市へ向かった。国道2号線を、岡山市内や倉敷へ向かういつもの方向とは違って東へ走る。途中で南下し、赤穂市内へ。目指すは赤穂温泉の伊和都比売神社(いわつひめじんじゃ)である。工場・倉庫街を経て住宅街の狭い路地へ。駐車場にクルマを停め、神社の鳥居の前を過ぎると「きらきら坂」の入り口に着いた。
「きらきら坂」は神社から海岸への急坂に設えられたもので、階段の側面にきれいなタイルが張り付けられている。下から見上げると、一面のタイルが輝いてとても美しい。この日は気候も良く、大勢の観光客が「きらきら坂」を通って海岸に降りていた。
わたしたちも海岸まで降りてみる。瀬戸内海は穏やかで、春の陽光にこちらも輝いていた。この海岸は、岩場を取り囲むようにぐるりと遊歩道がつくってあり、わたしたちはそこをぶらぶらと歩き春の日差しを楽しんだ。
時間はそろそろ時分時。「きらきら坂」にはイタリアンのランチで人気のお店もあるが、その日は定休日だったりしてどうしようかと思っていると、ランチ向きのサンドイッチを看板に掲げる店があった。そこに入ってみる。
わたしたちが注文したBLTサンドは、期待以上の出来栄えでとてもおいしかった。その日はたまたまワールドベースボールクラシックの決勝戦の日だったが、店の人がわたしたちの席に日本対アメリカ戦の実況中継を映しているタブレットを持ってきてくれた。途中から観戦したわたしたちは、試合終了まで観ることができ、優勝の瞬間、わたしは思わず「やった!」などと声を出してしまった。
この日は、いろいろな意味でとてもいい一日になった。こんどはゆっくり赤穂温泉にも浸かるスケジュールでやって来たい。